遺産分割その他相続案件を得意としている弁護士青木一平です。
遺産分割等相続案件に多数携わっております。
今回は、相続が起こったら知っておいていただきたいことをまとめました。手続きを進める前にご一読いただけますと、
相続の流れや注意点がお分かりいただけるかと思います。
相続の流れや遺産分割の手続きについて
最終更新:2023年7月22日
1. はじめに
相続が発生した場合、相続人はどのように手続きを進めていけば良いかを解説します。
まず、被相続人が遺言を作成しており、遺言によって、どの遺産を誰が取得するのか明らかであるような場合は、
基本的には、遺産分割をせずに、遺言に従って遺産を取得することになります。
ただし、そもそも遺言が遺言者の意思によらずに作成されているような場合は遺言の有効性を調停や裁判で争うことになります。
また、遺言が有効であっても、遺留分が問題となる場合は、遺留分減殺請求や遺留分侵害額請求等をすることになります。
その場合は少なくとも遺産分割をする場合と同様に、相続人の調査等を行う必要があります。遺言と遺留分の関係については、
「不公平な遺言と遺留分」をご参照ください。
他方、被相続人が遺言を作成していなかった場合や、作成していても、遺言に記載されていない遺産があったり、
遺言では共同相続人の相続分が指定されているのみでどの財産を誰に帰属させるのか記載されていないような場合は、
遺産分割を行う必要があります。
以下、遺産分割を行う場合の進め方等を解説していきます。
2. 相続人と相続分
2-1. 相続人の順位
相続が開始した場合、相続する人を「相続人」、相続される人つまり亡くなった人を「被相続人」といいます。
相続人になる人には順位があり、被相続人に子がいれば子が相続人になり、子がいなければ被相続人の直系尊属
(父母や祖父母、ただし親等の異なる者の間では、その近い者が先になりますので、
父母も祖父母も生存している場合は父母が相続人になり祖父母は相続人になりません)が相続人となり、
直系尊属もいなければ兄弟姉妹が相続人になります(民法887条~889条)。
被相続人の配偶者(夫が亡くなったときは妻、妻が亡くなったときは夫)は常に相続人となります(民法890条)。
2-2. 代襲相続
被相続人が亡くなる前に被相続人の子が亡くなっていた場合、亡くなっている子の子(被相続人の孫)が相続人となります。
これを代襲相続といい、被相続人の孫を代襲者といいます(民法887条2項)。
被相続人が亡くなる前に被相続人の子もその子(代襲者)(被相続人の孫)も亡くなっている場合は、代襲者の子(被相続人のひ孫)が相続人となります。
これを再代襲相続といいます(民法887条3項)。
兄弟姉妹の場合、代襲相続はありますが、再代襲相続はありません。
兄弟姉妹が相続人となる場合で、被相続人が亡くなる前に兄弟姉妹が亡くなっていた場合は、その子(被相続人の甥や姪)が相続人になりますが、
代襲者(甥や姪)も亡くなっていた場合、甥や姪の子は相続人になりません(民法889条2項)。
ただし、昭和55年12月31日以前に相続が開始した場合は、兄弟姉妹についても再代襲があります。
2-3. 相続分
複数人の相続人がいる場合、相続人の相続分は、子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は各2分1となり、
配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は3分の1とし、直系尊属の相続分は3分の1となり、
配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は4分の1となります。
そして、子が数人、親等が同じ直系尊属が数人、兄弟姉妹が数人いる場合は、各自の相続分は等しいものとされます。
ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1となります(以上民法900条)。
例えば、被相続人には妻がいましたが、子も孫もおらず、両親も亡くなっており、兄と妹がいた場合、 配偶者である妻が4分の3を相続し、兄と妹が8分の1ずつ相続します。
2-4. 相続人の調査
誰が相続人であるかは、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍、除籍、改製原戸籍等と相続人の戸籍等を収集して調査することになります。
3. 相続の対象
3-1. 一切の権利義務を承継
相続人は、相続開始の時から、基本的には被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。
不動産や預金、有価証券といったプラスの財産だけでなく借金などの債務も相続します。
プラスの財産よりも債務の額の方が大きい場合は相続放棄を検討することになります(民法915条)。
3-2. 遺産分割までの権利帰属の形態
3-2-1. 共有
相続人が複数人いる場合、遺産分割をするまでの間、相続財産は共有に属するとされています(民法898条)。
そして、各相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継するとされています(民法899条)。
分かりやすい例として、不動産は、遺産分割が成立するまで、共同相続人による法定相続分の割合による共有となりますので、
法定相続分と異なる持分にするためには遺産分割が必要となります。
3-2-2. 預金や貯金
相続人が複数人いる場合、「その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され
共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する」とされています(最高裁昭和29年4月8日判決)。
従前、銀行や信用金庫に対する預金やゆうちょ銀行に対する貯金も可分債権と解されていたため、
相続の開始により当然に分割されるものであり、遺産分割の対象とならないとされてきました(最高裁平成16年4月20日判決)。
しかし、最高裁は、平成28年12月19日、最高裁平成16年4月20日判決を変更し、「共同相続された普通預金債権、
通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、
遺産分割の対象となるものと解するのが相当である」と判断しました
(最高裁平成28年12月19日決定)。
よって、現在では、預金や貯金は、相続開始と同時に共同相続人に分割されることなく、遺産分割の対象になります。
ただし、改正民法により、各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に自分の法定相続分を乗じた額につき、
単独で払い戻しを請求することができます。ただし、一つの金融機関から払い戻しを受けられるのは150万円までです。そして、払い戻しを受けた場合、
その分は遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなされます(民法909条の2)。
なお、民法909条の2は2019年(令和元年)7月1日に施行されましたが、施行日前に開始した相続に関しても適用があります。
3-2-3. 債務
例えば、被相続人が金融機関から借入れをしていた等被相続人が債務を負担していた場合、債権者との関係では、
その債務は法定相続分の割合で分割して共同相続人が負担することになります(大審院昭和5年12月4日決定)。
被相続人が誰かの保証人になっていた場合の保証債務も例外ではありません。
よって、基本的には被相続人の債務は遺産分割の対象になりません。
しかし、遺産分割協議の中で、共同相続人の間で、誰が債務を負担するのかを決めることはできます。
ただし、共同相続人の間で負担割合を決めるだけでは、債権者に対しては意味を持ちません。
共同相続人の間で決めた負担につき、債権者も納得し、債権者との間で書面を取り交わすことができれば、
共同相続人の間で決めた負担が債権者との間でも意味を持ちます。
4. 特別受益
相続人が確定し、遺産が確定すれば、その他に修正する要素がなければ、遺産の評価額を確定して、相続分を乗じた価額で分けることになります。
しかし、一部の相続人だけが被相続人の生前に贈与を受けていたり遺贈(遺言による贈与)を受けたような場合には、
その贈与や遺贈を遺産分割の際に考慮できる場合があります。それが「特別受益」と呼ばれるものです。
一部の相続人に特別受益が認められる場合は、その特別受益を遺産に組み戻して(これを「持戻し」といいます)
遺産を算出し(持戻しをした後の遺産を「みなし遺産」といいます)、このみなし遺産を基礎として各相続人の取得する財産額を算出することになります。
詳しくは、「不公平な贈与又は遺贈と遺産分割」をご参照ください。
5. 寄与分
遺産分割の際の考慮の要素として「寄与分」と呼ばれるものがあります。
寄与分とは、共同相続人が、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により
被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合に、その特別の寄与の価額を遺産から控除して各共同相続人が相続する額を算定し、
特別の寄与をした相続人に特別の寄与の価額を加える場合における、特別の寄与の価額をいいます(民法904条の2)。
寄与分は、例えば、相続人が療養看護をしたことによって、本来介護のために支払われたであろう500万円が維持できたとして、 500万円を寄与分として認めたり、 相続人が農地の維持に貢献したとして農地の価額の2割である200万円を寄与分として認めたりといったことが考えられます。
6. 特別受益及び寄与分がある場合の具体的な計算
【事例】父Aが遺産2700万円を残して死亡しました。相続人は、妻B、長男C、長女Dです。 父Aは、生前長女Dに600万円を生計の資本として贈与しています。また、長男Cの寄与分300万円が認められるとします。
まず、遺産に特別受益を持ち戻し、寄与分を控除して、みなし相続財産を算出します。
上記事例の場合、遺産2700万円に長女Dへの贈与600万円を持ち戻し、
長男Cの寄与分300万円を控除した3000万円がみなし相続財産となります。
次にみなし相続財産に法定相続分を乗じた額から特別受益を控除し、または寄与分を加算した具体的相続分額を算出します。
具体的相続分額は、
妻Bが、3000万円×1/2=1500万円、
長男Cが、3000万円×1/2×1/2+300万円=1050万円、
長女Dが、3000万円×1/2×1/2-600万円=150万円
となり、その割合(具体的相続分率)は、
妻Bが、1500/1500+1050+150=1500/2700、
長男Cが、1050/1500+1050+150=1050/2700、
長女Dが、150/1500+1050+150=150/2700
となります。
そして、上記事例の場合は、遺産分割の対象となる遺産は2700万円ですから、
相続人が遺産分割により最終的に取得する額は、
妻Bが1500万円、長男Cが1050万円、長女Dが150万円
となります。
7. 遺産分割の手続き(遺産分割協議、調停、審判)
以上までが、民法の規定通りに遺産分割をする場合の考え方になります。
しかし、遺産分割は必ずしも民法の規定通りに行わなければならないわけではありません。
共同相続人の全員の合意で、一人の相続人が全ての遺産を相続するといった遺産分割協議をすることも可能です。
相続が開始し、遺産分割の必要が生じた場合、相続人全員の合意が得られるのであれば、
遺産分割協議書を作成して遺産を分けることができます。
例えば、遺産が現金だけの場合のように、第三者に遺産分割が成立したことを示さなくても分割ができるのであれば、
遺産分割協議書の作成自体必ずしも必要というわけではありませんが、
遺産の中に不動産があれば登記をするために遺産分割協議書が必要ですし、
銀行預金を解約する際にも銀行に遺産分割協議書を示す必要があります。
共同相続人の間で、例えば、遺産である不動産の評価額、特別受益の有無、寄与分の有無等に争いがあり、合意に至らない場合は、 家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。また、寄与分については、別途、寄与分を定める処分調停を申し立てることになります。 遺産分割調停では、調停委員が各当事者の主張を調整しながら当事者の合意を目指します。
調停で当事者が合意できない場合、調停は不成立となり、審判に移行します。
審判は、裁判官が、当事者の主張や提出された資料等をもとに、どの遺産を誰に帰属させるのか判断することになります。
8. 遺産分割の方法(現物分割、代償分割、換価分割)
上記で述べた【事例】では、父Aが遺産2700万円で、相続人が遺産分割により最終的に取得する額は、
妻Bが1500万円、長男Cが1050万円、長女Dが150万円
となりました。
ここで、父Aが残した遺産2700万円が、例えば1000万円の不動産と預貯金であったというような場合は、
妻Bが1000万円の不動産と500万円の預貯金を取得し、長男Cが1050万円の預貯金を取得し、長女Dが150万円の預貯金を取得する、
といった方法で分割することができます(これを「現物分割」といいます)。
では、父Aの遺産2700万円が一つの不動産であったような場合、どのように遺産分割を行うのでしょうか。
上記の例で遺産が2700万円の一つの不動産しかない場合、一つの例として、妻Bの持分1500/2700、
長男Cの持分1050/2700、長女Dの持分150/2700として、共有とする方法が考えられます。
この分割方法も「現物分割」と考えてよいと思います。
しかし、この場合、不動産の管理や処分につき、後日相続人間で折り合いがつかなくなった時に、相続人間で紛争が生じるおそれがあります。
そこで、実務上は、相続人の一人が不動産を取得し、その代わりに、不動産を取得する相続人が、他の相続人に代償金を支払う、
という処理がなされることが多いです。
【事例】の場合、例えば、長男Cが一人で不動産を取得し、その代わりに、長男Cが妻Bに1500万円を、長女Dに150万円を代償金として支払う、
といった方法です。これを「代償分割」といいます。
しかし、相続人の誰も代償金を支払うほどの資力がない場合、代償分割の方法をとることができません。
その場合は、当事者全員の合意で不動産を売却し(任意売却といいます)、
売却代金を、妻1500:長男1050:長女150の割合で分ける処理がなされることが多いです。
これを「換価分割」といいます。
遺産分割調停で当事者の間に折り合いがつかず、審判になれば、裁判所が分割方法を定めることになります。 裁判所は、まず、現物分割や代償分割を検討しますが、いずれの方法も相当でない場合は、遺産の換価を命じることになります。