青木一平法律事務所

京都烏丸御池にある法律事務所

不公平な遺言と遺留分

最終更新:2023年7月1日

目次
  1. はじめに
  2. 遺留分とは
  3. 2019年(令和元年)7月1日以降に生じた相続と遺留分
    1. 遺留分を算定するための財産の価額
    2. 持戻し免除と遺留分
    3. 遺留分額
    4. 遺留分侵害額
    5. 遺留分侵害額の請求
    6. 遺留分侵害額請求の期間制限
  4. 2019年(令和元年)6月30日までに生じた相続と遺留分
    1. 遺留分を算定するための財産の価額
    2. 持戻し免除と遺留分
    3. 遺留分額
    4. 遺留分侵害額
    5. 遺留分減殺請求
    6. 遺留分減殺請求の期間制限

1. はじめに

被相続人が残した遺言が、共同相続人間で著しくもらえる遺産の金額に差がある内容となっている場合、 少ない遺産しかもらえない相続人はどういう対応をすればよいでしょうか。事例で見ていきます。

【事例1】
父Aが死亡しました。相続人は、長男B、次男C,長女Dの3人です。 父Aが残した遺産は、預貯金300万円と不動産(評価額2000万円)ですが、 不動産は長男Bに相続させる旨の遺言が出てきました。 預貯金300万円については遺言に記載がありません。 また、父には30万円の医療費が債務として残っています。 なお、父Aは生前に次男Cに生計の資本として3700万円を贈与しています。 また、持戻しの免除の意思表示がなされたという事情はありません。

この場合、死亡した父Aが被相続人で、長男B、次男C,長女Dの3人が共同相続人です。

「生計の資本として贈与」は、生計の基礎として役立つような贈与とかなりゆるやかに解されています。
詳しくは「特別受益の持戻しの対象」をご参照ください。

2. 遺留分とは

兄弟姉妹以外の相続人は、相続が発生した場合、被相続人の意思に関わらず、一定限度の額を取得する権利が保障されています。 この一定限度の額を受ける権利を遺留分といいます(民法1042条)。
遺留分の額は、遺産(厳密には単純な遺産ではなく、後述の「遺留分を算定するための財産の価額」以下同じ)に、 それぞれの相続人の遺留分割合を乗じて算出します。
そして、この遺留分割合は、例えば子が亡くなった場合の親のような直系尊属のみが相続人の場合は3分の1、
それ以外の場合(例えば、親が亡くなって子が相続するような場合)は2分の1となりますが、 共同相続の場合は、さらに各自の法定相続分を乗じて算出します。 【事例1】の場合、遺産の2分の1に、長男B、次男C、長女Dの各自の法定相続分3分の1を乗じ、 長男B、次男C、長女Dとも遺留分割合は6分の1となります。
ただ、この遺留分については、2019年(令和元年)7月1日に施行された改正民法の影響により、 2019年(令和元年)7月1日以降に生じた相続と2019年(令和元年)6月30日までに生じた相続とで、 遺留分を算定するための財産の価額の算出方法や請求の方法が異なります。

3. 2019年(令和元年)7月1日以降に生じた相続と遺留分

3-1. 遺留分を算定するための財産の価額

遺留分を算定するための財産の価額は、相続開始時の遺産に、生前に被相続人が贈与した財産の価額を加え、 被相続人が残した債務を控除した額となります(民法1043条)。
但し、全ての贈与が含まれるわけではなく、相続人に対する贈与は、相続開始前の10年間にしたものに限られますが、 被相続人と贈与を受けた相続人の双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、 10年以上前のものも含まれます(民法1044条)。
*「遺留分権利者に損害を加えることを知って」につき、贈与財産の価額が残存財産の価値を超えることを知った事実ばかりでなく、 なお将来被相続人の財産に何ら変動が生じないことの予見の下に贈与があった事実が必要であるとする判例があります (大判昭和11年6月17日)。
また、遺留分を算定するための財産の価額に含まれる相続人に対する贈与は、 婚姻もしくは養子縁組のため又は生計の資本としての贈与に限られます(民法1044条)。

【事例1】の場合、次男Cへの贈与が亡父Aの死亡より10年以上前になされていて、亡父A及び次男Cが、 他の相続人に損害を与えることを知らなければ、 次男Cへ贈与された3700万円は遺留分を算定するための財産の価額を加えることができませんので、
300万円(預貯金)+2000万円(不動産)-30万円(医療費)より
2270万円が遺留分を算定するための財産の価額となります。
他方、次男Cへの贈与が亡父Aの死亡より10年以上前になされていても、 亡父A及び次男Cが、贈与の時に、他の相続人に損害を与えることを知っている場合や、 次男Cへの贈与が亡父Aの死亡前の10年間になされていた場合は、 次男Cへ贈与された3700万円を遺留分を算定するための財産の価額に加えることができますので、
300万円(預貯金)+2000万円(不動産)+3700万円(次男Cへの贈与)-30万円(医療費)より
5970万円が遺留分を算定するための財産の価額となります。

3-2. 持戻し免除と遺留分

被相続人が贈与につき持戻し免除の意思表示をしていた場合でも、 当該贈与の価額は遺留分を算定するための財産の価額に加算されると考えられています。

3-3. 遺留分額

遺留分の額は、遺留分を算定するための財産の価額に、それぞれの相続人の遺留分割合を乗じて算出します。
この遺留分額が、相続において最低限保障される金額になります。

【事例1】の場合、上記のとおり、長男B、次男C、長女Dとも遺留分割合は6分の1ですから、 次男Cへの贈与を遺留分を算定するための財産の価額に加えることができない場合は、
2270万円×1/6より
378万3333円が、長男B、次男C、長女Dの遺留分額となります。
他方、次男Cへの贈与を遺留分を算定するための財産の価額に加えることができる場合は、
5970万円×1/6より
995万円が遺留分額となります。

3-4. 遺留分侵害額

遺留分侵害額とは、相続において取得した遺産や特別受益とされる生前の贈与の額が、 遺留分額に満たない場合のその差額をいいます。
また、侵害された遺留分を請求する人を遺留分権利者といいます。

遺留分侵害額は、遺留分額から、①遺留分権利者が受けた遺贈や特別受益の額を控除し、②遺留分権利者が相続によって取得する遺産の額を控除し、 ③遺留分権利者が承継する被相続人の債務の額を加算して算出します(民法1046条2項)。
なお、ここでいう遺留分権利者が承継する被相続人の債務の額とは、相続によって、 相続人は、被相続人の債務を法定相続分に従って相続しますので、被相続人の債務に遺留分権利者の法定相続分を乗じた額となります。

【事例1】の事案も、次男Cへの贈与を遺留分を算定するための財産の価額に加えることができない場合とできる場合に分けられますが、 ここでは、次男Cへの贈与を遺留分を算定するための財産の価額に加えることができない場合を検討してみます。

ア  まずは遺産分割の検討

まず、亡父Aの遺言に預貯金300万円についての記載がありませんから、 この300万円の遺産を相続人間で分割する必要があります。
また、2019年(令和元年)7月1日以降に生じた相続においては、遺留分侵害額の算出の際に、 遺留分額から遺留分権利者が相続によって取得する遺産の額を控除しますから、 遺産分割が遺留分侵害額請求より後回しになる場合であっても、遺産分割の結果取得する遺産の額の算出が必要となります。

ここで、次男Cへの贈与を遺留分を算定するための財産の価額に加えることができない理由が、 婚姻もしくは養子縁組のため又は生計の資本としての贈与であったが、 その贈与が遺留分権利者に損害を加えることを亡父Aも次男Cも知らず、贈与から10年以上が経過しているからである場合は、 次男Cへの3700万円の贈与は、持戻し免除の意思表示がない以上、特別受益として持ち戻されることになります (但し、相続開始後10年を経過していて、かつ、令和10年4月1日を経過している場合は、 やむを得ない事由がなければ特別受益の持ち戻しは認められません(民法904条の3))。
その結果、預貯金の300万円と不動産の2000万円に次男Cへの贈与3700万円を加えた6000万円が 相続財産とみなされ(民法903条1項)、 この6000万円を、長男B、次男C、長女Dの3人で分割しますので、 まず法定相続分に基づく各自の相続分額は2000万円となります。

次に、法定相続分に基づく相続分額に生前贈与等の影響を反映させた具体的相続分を算出します。
長男Bは遺言により2000万円の不動産を取得しますから、法定相続分に基づく相続分額と同額であり、 長男Bの具体的相続分は0円となります。
次男Cは、 生前贈与の3700万円が法定相続分に基づく相続分額2000万円を超えますから、 具体的相続分は0円となります。 実際は、相続分額2000万円から生前贈与3700万円を差し引くとマイナス1700万円になりますが、 次男Cがこのマイナス1700万円分を長女Dに支払う必要はありません(民法903条2項))。
長女Dは、亡父Aの生前も遺言によっても何も財産をもらっていませんので、2000万円が具体的相続分となります。

以上より、長男B、次男C、長女Dの具体的相続分は、0:0:2000万となりますので、 預貯金300万円は全額長女Dがもらうことになります。

イ  遺留分侵害額の計算

次に遺留分侵害額を検討します。
上述のとおり、次男Cへの贈与を遺留分を算定するための財産の価額に加えることができない場合の遺留分額は、
2270万円×1/6より
378万3333円です。
そして、遺留分侵害額は、遺留分額から、①遺留分権利者が受けた遺贈や特別受益の額を控除し、 ②遺留分権利者が相続によって取得する遺産の額を控除し、 ③遺留分権利者が承継する被相続人の債務の額を加算して算出します(民法1046条2項)。

長男Bは2000万円の不動産を取得し、次男Cも3700万円の生前贈与を受けていますから、 遺留分は侵害されていません。

長女Dは、遺留分額378万3333円から遺産の預貯金300万円を差し引き、 医療費10万円を加算した88万3333円が遺留分侵害額となります。

3-5. 遺留分侵害額の請求

遺留分権利者は、受遺者(遺贈を受けた者)、特定財産承継遺言(「相続させる」旨の遺言)により財産を承継した相続人、 相続分の指定を受けた相続人、受贈者(生前贈与を受けた者)に対し、 遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます(民法1046条)。

遺留分侵害額の請求を受けた者は、遺言や生前贈与によって得た財産の価額を限度として遺留分侵害額を負担します (民法1047条)。
そして、受遺者(遺贈を受けた者)、特定財産承継遺言(「相続させる」旨の遺言)により財産を承継した相続人、 相続分の指定を受けた相続人と受贈者(生前贈与を受けた者)がいる場合は、 まず受遺者(遺贈を受けた者)、特定財産承継遺言(「相続させる」旨の遺言)により財産を承継した相続人、 相続分の指定を受けた相続人が先に遺留分侵害額を負担します。
また、受遺者(遺贈を受けた者)、特定財産承継遺言(「相続させる」旨の遺言)により財産を承継した相続人、 相続分の指定を受けた相続人が複数人いるときは、その目的物の価額の割合に応じて遺留分侵害額を負担します。
生前贈与の場合は、同時に複数人に生前贈与がなされたものであるときは、 その目的物の価額の割合に応じて遺留分侵害額を負担し、 別時期に複数人に生前贈与がなされたときは、後の贈与の受贈者から順次遺留分侵害額を負担します。

上記の例によれば、長男Bは受遺者、次男Cは受贈者ですから、 長女Dは、長男Bに対して遺留分侵害額の請求をすることになります。

3-6. 遺留分侵害額請求の期間制限

遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、 相続の開始及び遺留分を侵害する贈与、遺贈、特定財産承継遺言(「相続させる」旨の遺言)による財産の承継、 相続分の指定による遺産の取得があったことを知った時から 1年間行使しないときは、時効によって消滅します。相続開始の時から10年を経過したときも同様です(民法1048条)。

4. 2019年(令和元年)6月30日までに生じた相続と遺留分

4-1. 遺留分を算定するための財産の価額

遺留分を算定するための財産の価額は、相続開始時の遺産に、生前に被相続人が贈与した財産の価額を加え、 被相続人が残した債務を控除した額となります(民法旧1029条)。 この点は、2019年(令和元年)7月1日以降に生じた相続と同じです。
但し、相続人への贈与は、相続開始前の10年間といった限定はなく、特段の事情がない限り、 全て遺留分を算定するための財産に含まれます(民法旧1044条、旧903条)。
なお、遺留分を算定するための財産の価額に含まれる相続人に対する贈与は、 婚姻もしくは養子縁組のため又は生計の資本としての贈与に限られます(民法旧1044条、旧903条)。

【事例1】の場合、特段の事情がない限り、時期を問わず、 次男Cへ贈与された3700万円を遺留分を算定するための財産の価額に加えることになりますので、
300万円(預貯金)+2000万円(不動産)+3700万円(次男Cへの贈与)-30万円(医療費)より
5970万円が遺留分を算定するための財産の価額となります。

4-2. 持戻し免除と遺留分

被相続人が贈与につき持戻し免除の意思表示をしていた場合でも、 当該贈与の価額は遺留分を算定するための財産の価額に加算されると考えられています。

4-3. 遺留分額

遺留分の額は、遺留分を算定するための財産の価額に、それぞれの相続人の遺留分割合を乗じて算出します。
この遺留分額が、相続において最低限保障される金額になります。

【事例1】の場合、上記のとおり、長男B、次男C、長女Dとも遺留分割合は6分の1です。
2019年(令和元年)6月30日までに生じた相続の場合、相続人への贈与は、 特段の事情がない限り、全て遺留分を算定するための財産に含まれますから、 特段の事情がない限り、次男Cへの贈与は遺留分を算定するための財産の価額に加えることになりますので
5970万円×1/6より
995万円が遺留分額となります。

4-4. 遺留分侵害額

遺留分侵害額とは、相続において取得した遺産や特別受益とされる生前の贈与の額が、 遺留分額に満たない場合のその差額をいいます。
また、侵害された遺留分を請求する人を遺留分権利者といいます。

改正前民法下においては、遺留分侵害額は、被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え、 その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに遺留分の割合を乗じ、 複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続分の割合を乗じ、 遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価額を控除して遺留分の額を算定し、 このようにして算定した遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除し、 同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定するものとされています(最判平成8年11月26日)。
なお、ここでいう同人が負担すべき相続債務とは、相続によって、 相続人は、被相続人の債務を法定相続分に従って相続しますので、被相続人の債務に遺留分権利者の法定相続分を乗じた額となります。

改正民法では、遺留分侵害額は、遺留分額から、①遺留分権利者が受けた遺贈や特別受益の額を控除し、 ②遺留分権利者が相続によって取得する遺産の額を控除し、 ③遺留分権利者が承継する被相続人の債務の額を加算して算出するとされていますから(民法1046条2項)、 遺留分額から控除する額が、改正民法は「遺留分権利者が相続によって取得する遺産の額」と明確であるのに対し、 改正前民法下においては、明文に規定はなく、判決により「遺留分権利者が相続によって得た財産」とされていたにすぎないため、 改正前民法下においては、侵害された遺留分を主張する時点において、未分割の遺産がある場合に、 どのように処理するのかにつき説が分かれていました。
一つは、未分割の遺産を単純に法定相続分に従って分割する場合の金額を算出し、その金額を控除するというものであり、 もう一つは、未分割の遺産を特別受益等を考慮して分割する場合の金額を算出し、 その金額を控除するというものです。 改正民法は、後者の立場に立っています。

【事例1】の事案の場合、特段の事情がない限り、次男Cへの贈与を遺留分を算定するための財産の価額に加えますので、 ここでは、次男Cへの贈与を遺留分を算定するための財産の価額に加えて検討してみます。

ア  まずは遺産分割の検討

まず、亡父Aの遺言に預貯金300万円についての記載がありませんから、 この300万円の遺産を相続人間で分割する必要があります。 また、先に述べたとおり、未分割遺産がある場合の処理には二つの考え方がありますが、 改正民法と同様の考え方に立つ場合は、遺産分割が未了であっても、実際に分割すればどうなるか算出する必要があります。
まず、次男Cへの3700万円の贈与は、持戻し免除の意思表示がない以上、特別受益として持ち戻されることになります (但し、相続開始後10年を経過していて、かつ、令和10年4月1日を経過している場合は、 やむを得ない事由がなければ特別受益の持ち戻しは認められません(民法904条の3))。
その結果、預貯金の300万円と不動産の2000万円に次男Cへの贈与3700万円を加えた6000万円が 相続財産とみなされ(民法903条1項)、 この6000万円を、長男B、次男C、長女Dの3人で分割しますので、 まず法定相続分に基づく各自の相続分額は2000万円となります。

そして、長男Bは遺言により2000万円の不動産を取得しますから、法定相続分に基づく相続分額と同額であり、 長男Bの具体的相続分は0円となります。
次男Cは、 生前贈与の3700万円が法定相続分に基づく相続分額2000万円を超えますから、 具体的相続分は0円となります。 実際は、相続分額2000万円から生前贈与3700万円を差し引くとマイナス1700万円になりますが、 次男Cがこのマイナス1700万円分を長女Dに支払う必要はありません。(民法903条2項))。
長女Dは、亡父Aの生前も遺言によっても何も財産をもらっていませんので、2000万円が具体的相続分となります。

以上より、長男B及び次男Cの具体的相続分は0ですから、預貯金300万円は長女Dがもらうことになります。

イ  遺留分侵害額の計算

次に遺留分侵害額を検討します。
上述のとおり、次男Cへの贈与を遺留分を算定するための財産の価額に加えた場合の遺留分額は、
5970万円×1/6より
995万円です。
そして、遺留分侵害額は、上述のとおり、被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え、 その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに遺留分の割合を乗じ、 複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続分の割合を乗じ、 遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価額を控除して遺留分の額を算定し、 このようにして算定した遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除し、 同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定するものとされています(最判平成8年11月26日)。
また、侵害された遺留分を主張する時点において、未分割の遺産がある場合、 未分割の遺産を単純に法定相続分に従って分割する場合の金額を算出し、その金額を遺留分額から控除するという考え方と、 未分割の遺産を特別受益等を考慮して分割する場合の金額を算定し、その金額を遺留分額から控除するという考え方があります。

長男Bは2000万円の不動産を取得し、次男Cも3700万円の生前贈与を受けていますから、 遺留分は侵害されていません。

長女Dは、未分割の遺産を特別受益等を考慮して分割する場合の金額を算定し、 その金額を遺留分額から控除するという考え方に立った場合、 遺留分額995万円から遺産の預貯金300万円を差し引き、 医療費10万円を加算した705万円が遺留分侵害額となります。
他方、未分割の遺産を単純に法定相続分に従って分割する場合の金額を算定し、その金額を遺留分額から控除するという考え方に立った場合、 遺留分額995万円から遺産の預貯金300万円の長女の法定相続分3分の1を乗じた100万円を差し引き、 医療費10万円を加算した905万円が遺留分侵害額となります。

4-5. 遺留分減殺請求

遺留分権利者は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈や贈与の減殺を請求することができます(民法旧1031条)。
この遺留分減殺請求権の法的性質は形成権とされており、遺留分減殺請求権の行使によって、その限度で、 遺留分を侵害する遺贈や贈与の効力が消滅し、遺贈や贈与の目的物は当然に遺留分権利者に帰属します。

遺留分減殺の対象や減殺の順序は、遺留分侵害額請求と同様です。
よって、【事例1】の場合、長女Dは、「不動産を長男Bに相続させる」という部分を減殺することになりますので、 長男Bに対し、不動産の所有権の持分の移転登記を請求することになります。
上記【事例1】の例で、長女Dが705万円の遺留分を侵害されている場合、 不動産の評価額が2000万円ですから、不動産の2000万分の705万の持ち分の移転登記を求めることになります。
遺留分侵害額が905万円の場合は、不動産の2000万分の705万の持ち分の移転登記を求めることになります。

4-6. 遺留分減殺請求の期間制限

遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、 時効によって消滅します。相続開始の時から10年を経過したときも同様です(民法旧1042条)。

相続に関するその他の法律問題はこちら