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遺産分割の前に出金された預貯金

最終更新:2023年4月8日

はじめに

遺産分割の前に相続人の一人が被相続人の預貯金からお金を出金して使ってしまった場合、 そのお金は遺産分割の対象になるでしょうか。

この問題は、2019年(令和元年)7月1日に施行された改正民法の影響により、 2019年(令和元年)6月30日までに生じた相続と、 2019年(令和元年)7月1日以降に生じた相続とで解決方法が異なる部分があります。

なお、相続は、遺産分割ができているか否かにかかわらず、 被相続人(相続される死亡した人)の死亡によって開始します(民法882条)。

2019年(令和元年)6月30日までに生じた相続の場合

遺産分割の対象となるのは、原則として遺産分割時に現存する財産です。
従って、被相続人の口座から出金されて使われたお金は、出金された時期が相続の開始前であっても開始後であっても、 遺産には含まれないことになります。 ただし、被相続人の預貯金を出金した相続人と他の相続人との間で、出金したお金を遺産に含めることに合意した場合は、 出金したお金も含めて遺産分割をすることになります。

一方、出金したお金を遺産に含めることに合意できなかった場合、そのお金は遺産分割の対象となりません。 そこで、そのお金は、不法行為又は不当利得として請求することになり、任意に解決できなければ、 地方裁判所や簡易裁判所に訴訟提起することになります(地方裁判所か簡易裁判所かは、請求する金額による異なります) (遺産分割が任意にできない場合は遺産分割調停を家庭裁判所に申立て、 調停が不成立の場合は家庭裁判所の審判に移行しますので、家庭裁判所の遺産分割とは別に、 不法行為に基づく損害賠償請求訴訟や不当利得返還請求訴訟が地方裁判所や簡易裁判所に係属することになります)。

2019年(令和元年)7月1日以降に生じた相続の場合

2019年(令和元年)7月1日以降に生じた相続の場合、被相続人の預貯金が出金された時期が相続開始後であれば、 出金した相続人以外の相続人全員の同意により、 出金された預貯金が遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができるようになりました(民法906条の2)。 逆に言えば、被相続人の生前に被相続人の預貯金から相続人が出金して使ったお金は、 これまでと同様、被相続人の預貯金を出金した相続人と他の相続人との間で、 出金したお金を遺産に含めることに合意できなければ、遺産分割の対象にはなりません。 なお、今回は預貯金を題材にしましたが、遺産分割前に処分された財産であれば、今回題材にした預貯金と同じ扱いになります。

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